台湾品質:台湾のセラミックアーティスト

これからの台湾カルチャーノート Vol.3若きセラミックアーティストが導きだしたリアルな台湾の魅力とは?

台北で活動するセラミックアーティスト陳向榮(チェン・シャンロン)さん。彼の作品はトロピカルフルーツや漢方薬といった独特のモチーフからインスピレーションを得て製作されています。その陶器の佇まいは静謐でありながらも、台湾生活の空気の緩みをふと感じさせます。


公式FBページより

チェンさんはイギリス留学を経て4年前に台北へと戻ったそう。アイデアの源泉、そして台湾人アーティストの視点で捉えたリアルな台湾の美しさを探るべく、北投の静かな住宅街に構えた彼の自宅兼アトリエに伺いました。

 

ロンドンの街角で感じた違和感がインスピレーションの源

ー 大学時代は陶芸専攻ではなかったとの事ですが、どのようなきっかけで今の陶芸という表現にいきついたのでしょうか?

ロンドン留学ではクリエイティブやカルチャー分野の事業育成を学んでいました。初めてセラミックに触れたのは、ロンドンで2013年に地域のコミュニティセンターで開催されていた陶芸教室に参加した時。その頃は、ただ本当に遊びの一環でしたが、徐々に興味が沸き、制作を続ける中で幸運なことに展示させてもらえる機会も増え…今に至ります。

台湾品質:台湾の陶芸家の作品サンプル

釉薬と試行錯誤と経験を積み重ねたサンプル

台湾品質:陶器アーティストの制作風景

素焼きを終えて釉薬がけを待つ新作達

 

ー チェンさんの作品のモチーフには、路上のフルーツ屋や、漢方薬店といった、ローカルな台湾の文化の影響がありますね。このようなインスピレーションを発見したきっかけを教えてもらえますか?

ロンドンにいた頃は、道ばたにある些細なモノも、自分が育った台湾の日常風景とは全く異なるので、新鮮に見えました。台湾に戻ったあとも、そんな路上観察の好奇心は絶える事はありませんでした。

台湾品質:台湾人アーティストの陶器作品

「Coconut」と題された作品群。テクスチャーのある外殻の中に満たされた水のイメージはまさに椰子の実そのもの

 

ー 異なる文化に触れる事で、見慣れた町の中にも「独特な何か」を発見出来るセンスが開眼したともいえますね。

普段から街中をあても無く歩くのが好きなんですが、合理的にコントロールされた商業的な場所ではなく、人間味のある活気の溢れた、庶民的な生活感を今でも感じる事の出来る場所が好きなんです。

例えば昔ながらのお店は、店毎にとても個性的な雰囲気があって、それぞれがある種の独特のスタイルを持っています。看板デザイン、商品のディスプレイ、広告に至るまで、店主の人柄やセンスが十分に見て取れますよね。

台湾品質、陶器アーティストの制作風景、手元

小さな作品の成形作業はリラックスした自由な形から大きな作品への発想が閃くことも

 

ー 昨年五月に行われたマティアス・カイザーとの二人展「金草中藥行Gold & Green 」では「漢方薬店」というユニークなコンセプトでした。オーストリア出身のマティアスとのコンセプトに対する視点の違いはありましたか?

この「中藥行(漢方)」というコンセプトは彼からの発案。2人で大体の内容を決めた後は、それぞれ台湾とオーストリアで製作しました。彼の作品はどちらかというと僕よりも抽象的で、氣や五行、風水といった、中国的な自然哲学や中国語医学の世界を目に見える形で表現しようとしています。

僕は漢方薬そのものの形のおもしろさであったり、触感や味覚といった、具体的なモチーフを元にインスピレーションを源泉を探りました。

台北のギャラリーでの展示風景

昨年5月台北のギャラリー朋丁pon dingで開催された「金草中藥行Gold & Green 」の様子

懷山藥(山芋を乾燥させたもの)と麝香(ジャコウ)をモチーフにした作品

 

台湾のリアルな生活に即した「美しさ」を表現したい

ー一昨年の展覧会「COCONUTS SHOW」で発表された陶器の涼しげな艶をまとった釉薬(うわぐすり)の使い方は、夏場の台湾の路上で見かけるトロピカルフルーツの水々しさを彷彿とさせました。

展覧会「COCONUTS SHOW」の様子。小さな作品群は台湾のフルーツ屋の様に「はかり」に載せて「量り売り」するといったユーモアも

元々、陶器作品を作り始めた最初の頃は釉薬も「自分が好きな色」であるとか単純な動機で選んでいたのですが、友人たちが作品を「美味しそう」であるとか「キャンディーみたい」と評するのを聞いて、味覚や触感といったインスピレーションを意識するようになりました。

台湾人アーティストの陶器個展の様子

ロンドン留学中に製作していた作品

 

ー いつも展示では、陶器だけでなく、雑貨屋で扱われているようなプラスチックの水差しやチープな食器、ゴムバンドといった既製品と一緒に組み合わせて置かれる事もありますね。

アジアの陶器のイメージというと…土の香りのするような色合いの器が、木の机の上に静かに置かれている、そんなイメージだと思うんです。でも台湾の日常は騒々しいカオティックな色あいやプラスチック製品が溢れています。

作品を色とりどりのプラスチック製品と組み合わせる事によって、もっと自分のリアルな生活に即した「美しさ」や、本質的でスピリチュアルなコントラストを作りたいんですね。そうした異なる性質の物質の調和が、まさに私の生き方や考え方を反映した「美」だと思います。

チープな日用品とのコントラスト。陶器はパッションフルーツやマスクメロンがモチーフ

 

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海外での経験を得て、台湾の日常の中にあったインスピレーションの源泉に辿り着いたチェンさん。

僕も日本と環境の違う台湾に住むようになってから、日常生活で目にしていたはずのモノが急に輝きだし、絵のインスピレーションになるという経験をしたので、チェンさんの話にとても共感できました。

台湾カルチャーの魅力とは、まさに複雑に入り組んだ古今東西のそれぞれの文化のコントラストの妙である、ともいえるかもしれません。こんな視点を意識して台湾を歩いてみるとまた新しい景色が見えてくるかもしれせん。

陳向榮(チェン・シャンロン)

台北在住のセラミックアーティスト。
近年は国内外で展示を行う他、2016年には作品集「Food Pose 食物擺態」をnos:booksから出版した。
HP:http://thefruitshop.co/

テキスト・写真:永岡裕介
編集:岸本 洋子 @yoko_taiwan

 

永岡裕介ってこんな人

大阪府出身。台北と東京を拠点に活動中のイラストレーター。画家。CDジャケットやイベントフライヤー、小説雑誌の挿画等を手がけています。東京の他、近年はソウル、台北、台中でも展示を行っています。八家将と台湾レコードには目がありません。
yusukenagaoka.comInstagram