これからの台湾カルチャーノート Vol.4一筋縄では行かない?台湾のレコード事情をレコードストアのオーナーに聞いてみた

こんにちは。永岡裕介です。

近年、世界的なアナログレコードのブームが起きています。中でも日本の80年代を中心としたニューミュージック、シティポップと呼ばれる音楽が日本のみならず、海外のリスナーを引きつけ、日本にレコードを探しに来る海外ファンを紹介したバラエティ番組がSNSで話題になったりしました。実は台湾でも2、3年の間にレコードを扱う場所が増えてきました。

台湾のインディー音楽シーンでは昨年、台湾の若手ソウルシンガー「9m88」が台湾では異例のアナログレコードでシングルをリリースをして、台湾のみならず日本のレコードショップ、音楽メディアでも数多く取り上げられ話題になりました。このレコードをリリースしたレーベルが「2manysound」です。

設立者のSpykeeは老舗ライブハウスTHE WALL裏にあるレコードショップ「2manyminds Records」のオーナー。積極的に日本を中心とした現行のインディー音楽をお店でピックアップする一方、DJではかつての知られざる台湾のアーバンミュージックも新旧織り交ぜてプレイする彼に、ここ数年の台湾のレコード事情を聞ました。

ー 山下達郎や大貫妙子の様な日本のレコードブームを牽引しているイメージの音楽が、最近は台湾の若い世代にも人気がある様に思えるのですが。

確かに80年〜90年代カルチャーは若者の間でも流行していますし、そういったファッションの流行の影響も受けて、同時代の音楽も一緒に注目されているのではないでしょうか。

音楽的には3、4年でクラブミュージックとは違う、蔡依林の様な踊れるポップスをDJがプレイするイベントも増えているとは思いますが、日本や欧米のようなAOR、シティポップの様な楽曲を中心にプレイするイベントはまだまだ少ないのが現状だと思います。

ー 日本のシティポップの場合、当時をリアルタイムで知らない若者や海外の人たちが再発見して注目されていますよね。台湾の音楽カルチャーではそういった温故知新、「レア・グルーヴ」的な概念はどう捉えているのでしょうか。

台湾の当時の社会状況から考えると、政治的な問題もポップミュージックの内容に影響していると思います。例えば、親の世代の頃は学校のダンスパーティでかける曲には全て学校のチェックが入っていたと聞きますから。そういった状況では古い音楽の質もまた日本と違ってきますし、その中から『グルーヴのある音楽』を探り当てるのは日本より難しいかも。

― そうそう。80年代始めの頃のレコードは中古で買ったりすると、どれも政府の審査認可のチェックのステッカーが貼られていますよね。

あと、昔は天母の辺りには米軍基地があり、僕の小さい頃でもその周りでアメリカンスタイルのバーなどを見かけました。そういうアメリカンカルチャーからロックの影響を受けた歌謡曲もあります。ちなみに僕の母親は鳳飛飛(ファンフェイフェイ)や高凌風(ガオリンフォン)のような歌謡曲はあまり好んで聞いていなかった様です。大学生の頃は校園民歌(キャンパスフォーク)の様なタイプの音楽を聴いていたようです。

― 同時代でも品行方正なフォークとディスコやロックのリスナーではライフスタイルもまた違いますよね。とりわけディスコやロックのポップスは音楽的興味から練られた楽曲というより、あくまで「娯楽」としての音楽の要素が強い?

きっと当時の台湾では『お酒が好き』とか、『パーティー/ディスコ』というライフスタイルは、キャンパスフォークの世界とは正反対だったんでしょう(笑)。ダンスミュージック系のポップスは、80年代後半に日本の楽曲をカバーする小虎隊や郭富城の様な「歌って踊れるアイドル」が出てきて初めてグルーヴのある音楽が人気になりました。ライフスタイルもファッションや新しい流行への興味が一般化してきた時代です。

― 今日はそんな80年代後半から90年代のレコードを何枚か持ってきました。何篤霖、比莉、藍心湄。何篤霖は今でこそバラエティタレントだけど、このレコードのバックメンバーの凄さはそれこそSpykeeに教えてもらいました。

コーラスが黃韻玲、作曲が小蟲。本当に豪華メンバー。これはいいですよね。比莉は80年代に山下達郎をカバーしています。

― 毎週木曜日にSpykeeが中心になってオーガナイズしているクラブイベント「Thursday Korner」はクラブミュージック以外の音楽をプレイするDJや、台湾公演にやってきた日本のインディーバンドのメンバーもDJで参加します。

ここ一年くらい、イベントでよく東京に行きましたが、東京のDJはやっぱりレコードでやる人が多いのがとても印象的でした。台湾でもレコードオンリーのイベントをやりたいという気持ちは常にありますが、台湾の古いポップスの様なレコードは数が少ない上に欲しいものも高くて買えないのが現状ですね。

― 有名人のレコードゆえに高い、という感じ。アンティークや「お宝グッズ」の世界ですよね。テレサテンの様なリイシュー(再発)されているレコードのタイトルも似た様な状況ですね。

日本のリイシューともまた意味が違いますよね。買う人もだいぶ違います。今、台湾でレコードを買っている層は、オーディオマニアや高級なステレオで音楽を聞きたい年齢層の上の世代でしょう。

― 先ほど来たお客さんもレコードは興味あるけど、プレーヤーは持ってないって言ってましたね。レコード人気とは言われていますが、やはり実情は日本と少し違います。とはいえ昨年は2manysoundとして二枚目となる「9m88」のシングルをアナログオンリーでリリースしました。

この音源を聞いた東京のミュージシャン達の反応がとても良かったので、こういった形のリリースが実現しました。日本のリスナーに向けてリリースしたいという気持ちがまずあったので、リリースの情報は実は最初台湾向けに広報もしてませんでした(笑)

― B面が竹内まりやのPlastic Loveのカバーという絶妙のチョイス。このアイデアはどこから?

カバーを歌うというアイデアはレコードを制作する中で出てきたモノですが、最終的には彼女の提案でPlastic Loveを歌いたい、ということでこうなりました。候補としては大橋純子などもありましたね。

―「9頭身日奈」も彼女自身がYouTubeにアップしてネット上でバイラルヒットした曲なので、台北のいわゆるレコードブームとはまた違うアプローチですね。

台湾インディーシーンではsunset rollercoasterの様なレイドバックしたサウンドのバンドもヒットしていますし、最近はApple Musicのサブスクリプションサイトにも音質のいい昔の台湾ポップスが多くあるので、若い世代が昔よりリーチしやすい環境があります。何より今は90年代も一つの温故知新として捉えることができるので、日本のアーバンなサウンドに通じる様な台湾ポップスを発見する若い世代が出てくるはずでしょう。

 

実は記事執筆中の4月1日をもって惜しくも閉店することになった『2manyminds Records』。Spykeeは、台北「月見ル君想フ」を運営するBIG ROMANTIC RECORDSのメンバーとしてイベント企画などをしていくそうです。今後の展開にも期待しています!

テキスト・写真:永岡裕介
編集:岸本 洋子 @yoko_taiwan

 

永岡裕介ってこんな人

大阪府出身。台北と東京を拠点に活動中のイラストレーター。画家。CDジャケットやイベントフライヤー、小説雑誌の挿画等を手がけています。東京の他、近年はソウル、台北、台中でも展示を行っています。八家将と台湾レコードには目がありません。
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